アメリカの鉄道など

このエントリは、圧倒的令和ッ!!ぴょこりんクラスタ Advent Calendar 2019のために書かれたものです。

今回は、つなぎとして適当なことを3つ書いて、お茶を濁したいと思います。なお、前の記事と同様にdisclaimerですが、自分は鉄道や法律の専門家というわけではありませんので、下記の内容・訳語等が正しくない可能性が多々ございますので、あらかじめご承知ください。

その1 - 79 mph

アメリカの鉄道について調べていると、特に最高速度について、79 mph(127.1 km/h)という謎の数値に当たることがあります。(マイルという謎の単位をそもそもツッコむべきな気はしますが、今回はそこは見逃しておきましょう)

たとえば、

  • 2017年のワシントン州の列車脱線事故のWikipediaの記述をみてみると、脱線したカーブの直前の区間の制限速度は79 mphだったとあります。("but the preceding track segment north of Mounts Road has a limit of 79 mph")
  • カリフォルニアのCapitol Corridorの新機関車導入の記事を見てみると、現状のtop speedは79 mphであると書いてあります。("the current track infrastructure and geography of the route limit the operating speed for Capitol Corridor trains to 79 mph")
  • CaltrainのSafety Tipsには、遅く走っているように見えるかもしれないがtop speedは79 mphに達する、とあります。("Even though they might look as if they’re moving rather slowly, Caltrain reaches a top speed of 79 miles per hour")
    • ところで、その次に、このスピードはフットボール(アメフト)のコートを3秒未満で走れるという例をひいてくるところが、アメリカらしいですね。

ちょっと西海岸に例が偏ってしまいましたが、他にも例がいっぱいあります。

このどう考えても中途半端な数値はいったいなんなのでしょうか?

FRA(連邦鉄道局)の規則によるもの

まあ検索すれば、すぐわかることなのですが、これは、Wikipediaの記事によれば、FRA(連邦鉄道局)の規則によるものです。

とはいえ、Wikipediaだけでは弱いので、ちゃんと原典を当たってみると、該当する規則は、49 CFR 236のようです。

§ 236.0 Applicability, minimum requirements, and penalties.

...

(d)(1) Prior to December 31, 2015, where any train is permitted to operate at a speed of 80 or more miles per hour, an automatic cab signal, automatic train stop, or automatic train control system complying with the provisions of this part shall be installed, unless an FRA approved PTC system meeting the requirements of this part for the subject speed and other operating conditions, is installed.

つまり、規則に定められる要件を満たす自動車内信号・自動列車停止装置・自動列車制御装置などを備えていないと80 mph以上で運行することができない、というものです。ついていないのかよ、と日本の旅客鉄道を知っている方はツッコみたくなるでしょうが、そういうものなのでしょう。

2015/12/31より前は、とついているところが気になるかもしれませんが、それ以降は次の節にあります。

(2) On and after December 31, 2015, where any train is permitted to operate at a speed of 80 or more miles per hour, a PTC system complying with the provisions of subpart I shall be installed and operational, unless FRA approval to continue to operate with an automatic cab signal, automatic train stop, or automatic train control system complying with the provisions of this part has been justified to, and approved by, the Associate Administrator.

アメリカのすべての鉄道で義務化されているはずであるPTC (Positive Train Control)が有効でなければ、80 mph以上の運行をすることができない、ということになります。基本的にはPTCを使えということですね。(ただし、FRAの認可があれば、(1)で認められた装置でも可)

なお、PTCの導入の期限は、この規則で推測される通り2015年でしたが、2018年まで延長されたようです。が、それでも間に合わないということで、一部の鉄道会社に対しては2020年まで再延長されたようです。

上記の例の場合

ということで最初に挙げた3例を見返してみましょう。

PTCは、上記の2017年の脱線事故の際に話題になった通り(もしあったら防げていたという福知山線事故と同様の話で)、Amtrak Cascadesの当該区間では導入の真っ只中でまだ運用は開始されていませんでした。

Capitol Corridorは、PTCが運用開始されたというニュースが2018年12月にあったくらいですので、少なくとも上記の新機関車の記事の時点(2017/11)では、80 mph以上の要件を満たしていなかったことになります。

Caltrainは、Positive Train Control Projectのページに日程が書いており、一部でも運用しているのかなんなのか定かではありませんが、少なくとも安全認証には2020年12月までかかるようです。

ということで、まともな安全装置がついていない路線では80 mph以上で運行できないので、そういう設備のない(なかった)多くの路線では79 mphが最高速度であったということになります。

しかし、PTCが整備されたとしても、そのほかいろいろな条件(線形や車両性能)があるので、すぐに80 mph以上の高速運転ができるわけじゃないでしょうし、望み薄ですけどね。

ちなみに

ところで、上記の規則を見てみると、

(2) On and after January 17, 2012, where a passenger train is permitted to operate at a speed of 60 or more miles per hour, or a freight train is permitted to operate at a speed of 50 or more miles per hour, a block signal system complying with the provisions of this part shall be installed, unless an FRA approved PTC system meeting the requirements of this part for the subject speed and other operating conditions is installed.

と書いてあります。同様に考えると、閉塞信号という基本中の基本の設備のないところでも、60 mph (96.6 km/h)未満では運行していいということなんでしょうか。

日本でも、いわゆる路面電車をはじめとする軌道では、軌道運転規則 (昭和29年運輸省令第22号) によれば、

(保安方式)

第六十六条 単線区間における本線路にあつては、保安区間を設け通票式を施行し、事故のためこれを行うことができないときは、保安区間を設け指導法を施行しなければならない

とあり、複線区間では保安装置は不要のようです。ただし、この場合、

(車両の最高及び平均速度)

第五十三条 車両の運転速度は、動力制動機を備えたものにあつては、最高速度は毎時四十キロメートル以下、平均速度は毎時三十キロメートル以下とし、その他のものにあつては、最高速度は毎時二十五キロメートル以下、平均速度は毎時十六キロメートル以下とする。

とある通り、最高速度は 40 km/h (24.8 mph)となるようです。

最近では、アメリカであっても閉塞信号のない野蛮な鉄道はないとは思いますが、規則がそうなっているのは、なかなか怖いところです。自分の解釈が間違っていることをむしろ祈ります。

その2 - 信号の色の意味

アメリカの鉄道を見てて気になるのは、やたらと縦に積み重なった信号です。

Bayshore Station (Caltrain)
Bayshore Station (Caltrain)

この写真で見ると5本の線路に対して、3つ縦に並んだ信号が5つ横にならんでいることかから、この縦3つで1セットということがわかります。

Mountain View Station (Caltrain)
Mountain View Station (Caltrain)

なお、かならず3つあるわけではなく、場所によっては2つだったり、見慣れた1つだったりします。この写真では左は2段で右は1段ですね。

日本でも、進路が複数ある場合には、それぞれの進路に対する信号をセットとしているのが普通ですが、その場合横に並べるのが普通で、縦に並べる例はかなりレアなのではないでしょうか。逆に、日本でよく見かける3灯式より大きいものは、アメリカでは一般的ではなさそうです。

当然それぞれの信号は緑・黄・赤でそれの意味するところはかなり明らかなのですが、では3つが組み合わさったとき、それはどのような意味を持つのでしょうか。

SpeedとRoute

鉄道信号の意味というのは、普通の人には無意味なものなので、一次資料となりそうなものは見つかりませんでした。ので、下記の資料あたりを参考にします。

これらによると、基本的にアメリカの信号はSpeed signalかつWeak route signalであるそうです。 つまり、この3つもしくは複数の信号で、速度制限と弱い進路(完全に進路を表すのではなく、分岐しているか直進かくらいしか表現できない)を表しているようです。

で、実際の現示(Signal aspect)の表を見てみると、だいぶ絶望したくなるくらいのパターンが出てきます。とはいえ、いくらなんでもその裏に原則があるはずなので、それを見ていきたいと思います。

その最初の基本原則は、上から順に読んでいき、すべてがRである場合を除いてはRには意味がない(故障でないことを表している)というもののようです。

まずは基本は、下記の3つのようです。(Aspectの名前は、各社でまた速度信号かどうかなどで変わるようです)

(以下の説明では、一般的ではないようですが、上の信号から順番に色をアルファベット一文字(点滅はFを加えた2文字)で並べた書き方をしています)

Stop

R, RR, RRR
R, RR, RRR

基本は、上記の写真で示したように、Rのみの場合です。すべてがRであれば停止(Stop)を意味します。

Clear

G, GR, GRR
G, GR, GRR

次は一番上がGの場合で、これは制限なく進んでよい(Clear)ということになります。

Approach

Y, YR, YRR
Y, YR, YRR

その次が一番上がYの場合で、これは次の信号がStopであることを示しています(Approach)。速度制限もあり、会社によって違いますが30とか45 mph程度のスピードに落とす必要があるようです。

そのほか

これらに加えて、より細かい速度制限を表現するために、一番上をYFとしたもの、二番目も加えてYGF, YG, YYと現示したものを使う場合もあるようです。

GRR, YFRR, YRR, YGFR, YGR, YYR
GRR, YFRR, YRR, YGFR, YGR, YYR

速度制限の順番としては、少なくともCaltrainにおいては、上の図で左から右の順に示したように、G -> YF -> Y -> YGF -> YG -> YY という順番のようです。一番上がR以外であり、点滅のほうが点灯より現示が高い、R以外が点灯している数が少ないほうが現示が高い、という法則でしょうか。

日本の場合は、G -> YFGF (抑速) -> YG (減速) -> Y (注意) -> YY (警戒) という順番なので、ちょっと違いますね。

分岐する場合

分岐する場合には、一番目はRで、二番目以降の信号が点灯するようです。

二番目以降の位置(と点滅の有無)によって分岐器における速度制限を表し、色によって分岐後の速度制限を表しているようです。複雑ですね。

RGFR, RGR, RRG
RGFR, RGR, RRG

たとえば、RGF(R), RG(R), RRGなどがあります。分岐器での速度制限は、二番目のGF->二番目のG->三番目のGの順に下がっていきます。そして、あくまで色はGなので、分岐器を通過した後は、Clearと同じ扱いとなります。

RYFR, RYR, RRY
RYFR, RYR, RRY

これが、RYF(R), RY(R), RRYとなると、分岐器での速度制限は、二番目のYF->二番目のY->三番目のYの順に下がっていきます。そして、色はYなので、分岐器を通過したあとは、Approachと同じ扱い(その次の信号で停止・速度制限あり)となります。

なお、上記では二段階(Clear, Approach)しか表せていませんが、上で示したように6段階くらいの速度制限がある場合には、それぞれ(あるいはその一部)に対応するバリエーションがさらに増えるようです。そこまでくるとだいぶ混乱するので、ここでは省略します。

ということで

日本の方式と比べてなんでこんなに複雑に見えるかというと、分岐器を通ったあとの速度制限まで表現しているからでしょう。日本の方式(Speed signalのみ)ですと、分岐器があろうがなかろうが、次の閉塞まで速度制限は適用されたままになります。(なのでより細かい制御は信号以外での速度制限でカバーしたりもします)

閉塞が十分短い日本の鉄道だとこれで問題ないでしょうが、アメリカの広大な荒野を走る路線などでは、そんなに細かく閉塞を置くわけにもいかないでしょうし、かといって分岐のあと数マイルもずっと分岐のための速度制限のままでは無駄が多い、といったところでしょうか。

まあ、このあたりは、完全に合理的な理由があるわけではなく、慣例によるものも多いとは思います。なので、これはこういうものだとして楽しむのがよいでしょう。

おまけ

信号の形も、場所によって様々で(Colorized)Position lightを東海岸(Northeast Corridorなど)では使っていました。

Newark International Airport Station
Newark International Airport Station

その3 - スローガン

アメリカの空港や鉄道に乗ると、TSA(のスローガンをよく目にします。

つまり、"If You See Something, Say Something®"です。

わざわざ商標登録してあるのがアレですが、まあ賛否両論にあるせよ、こういったものはほかの国にもあるのでしょうか?

よくわからない

と思って、調べてみたのですが、見つかりませんでしたというまとめブログみたいな残念な内容になってしまいました。

筆者がアメリカ以外で一つ知っているのは、イギリスのBritish Transport Policeの“See It. Say It. Sorted.”です。sortを使っているのが、イギリスっぽい感じがいたします(適当)。

テロ対策に特に力を入れていそうなアメリカとイギリスであるのは納得がいきますが、といって、他の国でもやっていないというわけではない気がします。が、どうにも見つけることができませんでした。

日本は全国交通安全運動みたいなのはやっている気がしますが、こういった決まり文句・スローガンというのはあまり見かけない気がいたします。

ということで、他国の例をご存じでしたら、ぜひお知らせください(わかったからといってどうってこともないんですが)