オルガンとともに

Created at 2024/12/10 0:00:00bynikorisoft

このエントリは、レジリエントでウェルビーイングなぴょこりんクラスタ Advent Calendar 2024のために書かれたものです。

さて、今回は短めのエントリです(予定)。以前のエントリでクラシック音楽の好きな音楽の録音云々を書きましたが、それとは別の好きな曲についてです。 それは、カミーユ・サン=サーンス (Camille Saint-Saëns)の交響曲第3番ハ短調「オルガン付き」(Symphonie no 3 en ut mineur op. 78 « Symphonie avec orgue ») 作品78 (1886年)です。非常に有名な曲ですね。

タイトルの通り、楽器編成としてオーケストラに加えてオルガンが入っているのが特徴でしょう。詳細は、下記の通りです。

種類 編成

木管

ピッコロ(第3フルート持ち替え)、フルート3、オーボエ2、イングリッシュホルン(コーラングレ)、クラリネット2、バスクラリネット、バスーン(ファゴット)2、ダブルバスーン(コントラファゴット)

金管

ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ

打楽器

ティンパニ、トライアングル、シンバル、大太鼓

鍵盤楽器

オルガン 、ピアノ (2手/4手)

弦楽器

第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス

明らかなオルガン・ソロのパートがあるわけではないので、オルガン協奏曲とは言いづらいでしょう。オルガンは、正直そこまで目立たないとさえいえるかもしれません。 地味なところですが、ピアノ奏者が地味に二人必要というのも特徴ですね。まあ、オルガンよりさらに目立たないというか、第2楽章(第2部)の一部でしか使われていなかったと思います。

曲構成は、交響曲としては珍しめの2楽章構成です。とはいえ、各楽章が前半部分と後半部分に明確に分かれているので、実質4楽章構成と言えるでしょう。

注目したところ (第2楽章 640~643小節)

で、今年注目した個所は、この曲の第2楽章の後半部分、練習番号FFの少し先、640小節目(Più Allegro)から643小節目の部分です。3/1拍子という異常な拍子となっています。

全体のスコアとしては、この通りです(前の小節からの流れと思われる音は削除してあります。オルガンは前後の小節からずっと同じ音を保持していますが、タイをここでは省略しています)。

ここから主要部分だけ抜き出すと下記の通りになります。もとのスコアだと移調楽器のせいでわかりにくいですが、ほとんどがユニゾン(もしくはそのオクターブ)になっているので、これくらいに集約できます。 全音楽譜出版社のスコアの解説でもほぼ同様に抜き出されています。

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主なパート抜粋

旋律としては、一つがホルンとトロンボーンによるもの(Ia)、もう一つがその掛け合いとしてのトランペットのもの(Ib)、対旋律としての第1ヴァイオリン(II)ということになります。あとは、低音部としては、オルガンがGをひたすら保持しています(III)ね。

Youtubeで見られる演奏としては、例えば下記のようなものがあります。(だいたい640小節目からを初期再生位置としています) 基本的に聞こえる音としては(打楽器を除いて)、この4つではないでしょうか。

・・・

なのですが、たまたま入手した録音(James O’Donnell (オルガン), Yannick Nézet-Séguin (指揮) London Philharmonic Orchestra)(Naxos Music Libraryへのリンク)で、これに加えて第2ヴァイオリンがよく聞こえるものにあたり、なぜかすごく感動したというのが今年の新たな発見でした。

何を言っているのか自分でも正直よくわかりませんが、とりあえず楽譜で見てみましょう。下記は第2ヴァイオリンを加えたものです(青いIIb)。特に第1ヴァイオリンが同じ音を続けているところに対する部分(青い点線で囲った部分)です。今まで聞いたほとんどの録音では、ここはヴァイオリンパートは同じ音を出しているように聞こえるものしかなかったので(つまりほとんど第1ヴァイオリンしか聞こえない)新鮮でした。旋律というほどでもなく対旋律のつなぎという程度ですが、これを意識するのとしないのとではだいぶ違って感じました。

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主なパート抜粋(第2ヴァイオリン追加)
上記を演奏したもの

ちなみに、もしかしてほかの弦楽パートも何かあるのかと念のため調べてみましたが、チェロとコントラバスはG音の保持とアルペジオ(G7またはAm7)のみ、独立して動いているように見えるヴィオラはIaとアルペジオを続けて弾いているという感じでした。やっぱりこの第2ヴァイオリンが、目立たないけど非常に重要なパートなんだなと思った次第です。(別にアルペジオが悪いわけではないですので念のため)

シーケンサーもどき

さて、記事としてこれだけだと物足りませんので、もう少しプログラミング的なものを付け加えてみます (むしろ、これがやってみたかったという面はありますが)。 実際にそれぞれのパートが各楽器でどういう音になっているのか、バランスをいじるとどうなるかなどがこのページで試せるといいなと思い、さっそく作ってみました。

やり方としては各楽器のパートの音データを別々の音楽ファイルとして作成し、それをだいぶ前の記事の応用でWebAudioを用いて各トラックのボリュームやミュート制御をして再生できるようにする、というものです。

なお、当然既存の録音から分離することは技術的にも難しいですし、著作権の問題もありますので、今回は各トラックのデータを自分が打ち込んで作成したものになります。 使用したのが初めての音源でもありそもそもDTMに関する技術があまりないので(言い訳)、ちゃんと調整ができていません。ボリュームの調整とかの前にそこをちゃんとやらないと試しても何の意味もないという話ではありますが、そこは時間的制約ということでご容赦ください。

ソースコードは、GitHubからもご覧いただけます

Instrument Solo Mute Volume

パートデータに関する補足です。

  • 当然ながら対象の部分(640-643小節目)に登場しない楽器のパートは省略しています。(ピッコロやテューバやピアノなど)

  • ホルンパートは、640-641小節目は第3・第4ホルンのみ、642-643小節目はすべてのホルンで演奏することになっていますが、ユニゾンということもあり音量含めて同じになっています。

    • トランペットも、642小節目は第1・第2トランペットのみ、644小節目から第3トランペットが加わりますが、同様です。

  • スコアで省略した部分も演奏から省略しました(640小節目冒頭の木管楽器パート)

  • 作曲者の指定したテンポ(2分音符=138)で作成しています。通例、クラシック音楽の数値でのテンポ表示はたいてい遅めで、ほとんどの実際の演奏はこれより速いはずですが、今回は従うことにしました。

  • もとにした全音楽譜出版社のスコアでは、トランボーンパートの642小節目の二分音符にはアクセントがついていません。作曲者の意図なのかミスなのか楽譜出版上での誤植なのかはわかりませんが、ほかの小節と同様のアクセントが意図されたとして解釈しています。(上記のスコアでもそのように書きました)

そのほかの部分

この曲はポピュラーであり、非常に親しみやすい曲だと思いますので、これ以上いろいろ言う必要もない気がしますが、せっかくなのでもう少しこの曲について述べていきます。

この曲はオルガンが特徴でありながらも、明確な主旋律として入ってくる場面はあまり多くありません。とはいえ存在感自体はなかなかのものですので、例えば第1楽章の後半部分(いわゆる緩徐楽章にあたる部分)は、全体的に静かなところにオルガンが低音含めて入ってくるため、録音やオーディオ機器の低音がどれだけ出るかのベンチマークに使われている事例を見たことがあります。(例えば、下記のようなところ)

それから第2楽章のフィナーレ部分、3/1拍子にまた戻る665小節目(Sans Presser)からのオルガンが綺麗にドシラソファミレドと行っているところも、最後はすべての楽器がC和音だけで終わるというところも、きれいでわかりやすいなと思うところです。(下記譜例は、665小節目からラストまでのオルガンと第1フルートと第1ヴァイオリン)

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ラスト部分(Org., Fl. I & Vn. I)

よくあることですが、交響曲としてはハ短調とされているので、こんなハ長調の終わり方だと忘れてしまいそうです。

旅行

で、結局旅行ネタにオチを持ってくるわけですが、この発見後、衝動的にこの曲のオーケストラの生演奏を聴きたくなってしまいました。そこで、直近で演奏会を探したところ、ロンドン交響楽団の来日公演があることがわかりました。東京公演と大阪公演があったのですが、気づいた時には東京公演は売り切れでした(実はそのあと追加販売があったっぽいですが、それはともかく)。なので、非常にやむを得ないことに大阪公演に行くことにしました。ですが、なにぶん平日夜の講演だったので、裁量労働制・リモートワークを活用して、夕方に行って朝に帰るというひどい日程で聞きに行くことになってしまいました。

ということで、以下のような日程で行きました。

行程 行き (東京→大阪) 帰り1 (大阪→名古屋) 帰り2 (名古屋→東京)

列車名・番号

のぞみ235号 (235A)

のぞみ270号 (270A)

のぞみ268号 (268A)

出発駅・ホーム

東京 16番線

新大阪 25番線

名古屋 15番線

出発時刻

15:39 (±0)

22:00 (±0)

06:37 (±0)

到着駅・ホーム

新大阪 21番線

名古屋 15番線

東京 15番線

到着時刻

18:05 (-1m)

22:49 (±0)

08:12 (±0)

車両番号

776-1024

746-245

776-1024

なんだかんだいって大阪だと飛行機より新幹線が便利だと思います。会場はThe Symphony Hallということで大阪駅からそれなりに近い場所ではあったのですが、さすがに終演後に東京まで帰ってくることはできませんでした。大阪泊でもよかったのですが、少しでも早く東京に翌朝着くようにするため、そして宿泊費も鑑みて、名古屋泊という中途半端な日程にしました。これによって、大阪泊した場合よりも翌日の東京着を10分程度早くすることができました。 なお、行きののぞみと帰りの翌日ののぞみが全く同じ車両、という偶然もありました。(ちなみに、サンライズを使うという手もあり一旦は予約していたのですが、新幹線よりは遅れのリスクが高そうであることと翌日の体調への影響などを考慮して最終的に新幹線としました)

で、肝心の演奏はもちろん素晴らしかったのですが、上記で述べたような細かい違いについては、どうしても音量が大きいということもあり、そこまで聞き分けられないということがわかりました。つまり、録音のほうがこういう細かいところはわかるというオチでした。

ライブにはライブのいいところもあるので、どっちの良さも楽しんでいきましょうという月並みな感想で今回は終わりにしたいと思います。

おまけの写真