パンデミックとカリフォルニアと国際線: 状況整理

このエントリは、異世界行ったら本気だすぴょこりんクラスタ Advent Calendar 2021のために書かれたものです。

さて、去年も今年もパンデミック以外に特筆すべきことがないわけですが、個人的にはその中でもパンデミックの最中にアメリカから日本へ帰国したことというのが一番大きいイベントであったと思います。 パンデミックが長期化するにつれて、この経験自体相対的にはレアでなくなるでしょうし、制度とかも毎月のように変わるので何か他の人の参考になるものではないのですが、そこはそれ、ある時点でのスナップショット、一体験として振り返ってみたいと思います。記憶もだんだん薄れてきているので、早めに書いておくにこしたことはないでしょう。

行程

まずは、出発地と目的地ですが、San Jose, CA、目的地はとりあえず日本、成田空港です。全盛期においては、SJC-NRT (NH171)という大変便利な便がありましたが、2020年3月のANAのダイヤ改正によって事実上消滅する(代わりにSJC-HND便になった)こととなりました・・・が、パンデミックによって、そもそもSJC-NRT便 (NH171/172)はラストフライトすらまともに運航されず、SJC-HND便 (NH119/120)に至っては開設以来一度も運航されていないという状況のはずです。それどころかSFO-TYO便ですら必ずしも毎日運航でないという状況に陥っていました。

日付 行程
2021/03/04 San Jose から San Francisco へ鉄道で移動 (Grand Hyatt at SFO泊)
2021/03/05 SFO (San Francisco International Airport) から NRT (成田国際空港) へ移動 (JL 57便) (機中泊)
2021/03/06 成田国際空港到着。検疫所の指定する宿泊施設での待機開始
2021/03/09 検疫所の指定する宿泊施設での待機終了。自宅等待機の開始 (別のホテルへ移動)
2021/03/21 自宅等待機の終了

当時の運航状況

ANA

当時の状況を見てみましょう。まずは、ANAです。

2021年1月25日発表の新型コロナウイルスの影響に伴う国際線 路線・便数計画の一部変更について(追加分63)を元に表にまとめてみましょう。(リンク先が消えるかもしれないですしね)

以下は、3月の東京とアメリカ(ハワイ除く)の間の週あたりの便数を示したものです。

ルート 便名 (西行便のみ) 週あたり往復数 (計画数) 週あたり往復数 (実際の運航数)
ロサンゼルス (LAX) NH5/105/125 21 7
サンフランシスコ (SFO) NH7/107 14 3
サンノゼ (SJC) NH119 7 0
シアトル (SEA) NH117 7 0
ワシントンDC (IAD) NH101 7 3
ニューヨーク (JFK) NH9/109 14 4
ヒューストン (IAH) NH113 7 3
シカゴ (ORD) NH11/111 14 7

と、各地から毎日少なくとも1便は飛んでいたものが、まったくそんな状況でなくなっているのがわかります。

JAL

では、JALです。

2020年12月17日発表の新型コロナウイルス感染症の影響に伴う国際線の対応について(Rev.24) の別添資料を元にして、同じようにまとめますと以下のようになります。

ルート 便名 (西行便のみ) 週あたり往復数 (計画数) 週あたり往復数 (実際の運航数)
ロサンゼルス (LAX) JL15/61 14 7
サンフランシスコ (SFO) JL1/57 14 7
サンディエゴ (SAN) JL65 7 3
シアトル (SEA) JL67 7 3
ニューヨーク (JFK) JL3/5/8005 14 7
ボストン (BOS) JL7 7 4
ダラス (DFW) JL11/8011 7 7
シカゴ (ORD) JL67 7 3

一部臨時便を出してNRTに振り分けるなどして、ANAよりは路線を維持している感じです。まあ、ANAは羽田国際線枠をとってだいぶ強気の計画となっていたので、やむを得ないところがありますが・・

ほか

あとは、アメリカ系の航空会社ですが、UALがNRT-SFOをなぜか毎日飛ばしていました(そのほかの路線は忘れました)。AALは確か全滅だった気がします。DALは・・・ちゃんと覚えてないですが、デトロイト便とかを飛ばしていた気がします。

選択

以上を踏まえて、アメリカ側の出発空港はSan Joseから陸路で現実的な時間で向かえるSFO、そして成田便を優先すると、JALかUALということになります。

まあその二択なら、当然JALになりますよね。なお、JALは上の表を見ると毎日飛んでいるように見えますが、NRT便が週4便(火・水・金・日)、HND便が週3便(月・木・土)という構成でした。

検疫などの状況

カリフォルニア

出発地のSan JoseがあるSanta Clara County、空港のあるSan Francisco City & Countyで微妙に規制が違うことがあったりして面倒なのですが、この段階ではどちらも似たり寄ったりな感染状況だった気がいたします(記憶が定かではない)。

Santa Clara Countyのこの頃の出発までの状況は、以下のようです。

日付 イベント
2020/03/04 州で非常事態宣言 (アナウンス)
2020/03/17 Santa Clara CountyでShelter-in-place Order施行 (命令の内容)
2020/10/05 Shelter-in-place OrderからRisk Reduction Orderに緩和 (アナウンス)
2020/12/06 Regional Stay at Home Orderを州の基準に先駆けて施行 (アナウンス)
2021/01/25 Regional Stay at Home Order解除。Purple Tierへ移行 (アナウンス)
2021/03/03 Purple TierからRed Tierへ移行 (アナウンス)

ということで、いわゆるロックダウンともいえるRegional Stay at Home Orderは1月に解除され、その次に厳しいPurple TierからRed Tierへと緩和されつつある段階でありました。なお、San Franciscoでも同じく3/3にRed Tierに移行していました。

Red Tierにおいて緩和された内容は、例えば、飲食店での室内での飲食が許可され(定員の25%もしくは100人の少ないほうまで)、飲食店以外の店舗に入れる人数も定員の50%まで、などというものです。

まあRegional Stay at Home Orderが発令されていたとしても、帰国するための移動はessential travelに見なされるはずなので、問題はなかったかと思います(ヨーロッパの国などと違って、理由書を持ち歩いていないといけないというほど強い規制はされていなかったですし)。ただ、non-essential businessとみなされて帰国に関する手続きが一部処理できないという問題が発生した可能性はありましたが。

日本への入国規制の変遷

現在も話題になっていますが、日本入国の際の規制はこのときも頻繁に変更され、なかなか複雑な状況にありました。このときは、アルファ変異株が話題になった頃でしたね。まとめると、以下のような形です。

日付 イベント
2021/01/08 緊急事態宣言 (2回目) 発令。これに伴い、すべての入国者・帰国者に対して陰性検査証明の要求および入国時検査実施。 (水際対策強化に係る新たな措置 (5))
2021/01/13 入国時の誓約違反時にペナルティ。ビジネストラック・レジデントトラック停止。(水際対策強化に係る新たな措置 (6)(7))
2021/02/02 イギリスなど5カ国(州)からの入国時に3日間の検疫所の指定する宿泊施設での待機が必要に (水際対策強化に係る新たな措置 (8))
2021/03/02 13カ国・地域をイギリスと同様に「新型コロナウイルス変異株流行国・地域」に指定 (新型コロナウイルス変異株流行国・地域への指定について)
2021/03/05 水際対策強化措置の発表。陰性証明要求・入国時検査の措置を、緊急事態宣言解除までから「当分の間」継続に変更。(水際対策に係る新たな措置 (9))

という感じでした。最後の3/5(アメリカ時間で3/4-3/5の深夜早朝)に出た内容が一番のくせ者でした。これは後ほど述べます。

ともかくも、隔離などに関しては、3/4の時点においては帰国者については以下のようなフローでした。

/*
 * アクション:
 *   検疫所の指定する宿泊施設での待機(期間, 追加で検査を実施する日);
 *   自宅等待機(期間);
 */
if ( 14日間以内に「新型コロナウイルス変異株流行国・地域」への滞在歴がある? ) {
    if ( 陰性検査証明がある? ) { // Route A
        検疫所の指定する宿泊施設での待機 (3d, [3d]);
        自宅等待機 (11d);
    } else { // Route B
        検疫所の指定する宿泊施設での待機 (6d, [3d, 6d]);
        自宅等待機 (8d);
    }
} else {
    if ( 陰性検査証明がある? ) { // Route C
        自宅等待機 (14d);
    } else { // Route D
        検疫所の指定する宿泊施設での待機 (3d, [3d]);
        自宅等待機 (11d);
    }
}

1/13にビジネストラックなどが停止されるまでは、さらにそれらのフローがあったりして、さらにカオスでした。なんでこう七面倒な制度にしちゃうんでしょうね(2021年12月現在は、オミクロン株に関する条件とワクチン接種に関する条件でさらに複雑になっていそうです)

ということで、このときどういう選択をしたかといいますと、アメリカ(カリフォルニア州)は、「新型コロナウイルス変異株流行国・地域」に指定されていなかったので、陰性検査証明なしで行くこととしました。主に、

  • 車などがない状態で、日本の基準に適合する検査を受け指定フォーマットの検査証明書を受け取るのがそれなりに大変であったこと(そもそも検査を受けに行くこと自体にリスクがある)
  • もともとホテルで14日間待機するつもりだったので、そのうち3日間が検疫所の指定する宿泊施設になっても実質大して変わらないこと

などがあり、この選択となりました。上の図でいえば Route Dを選択したことになります。

この前提による日程を覆すことが起きるとすれば、カリフォルニア州が前述の「変異株流行国・地域」に指定されてしまうという展開ですが、これはあったとしてもホテルを3日分キャンセルすればなんとかなることです。あとは、飛行機がそもそもキャンセルされるとかでしょうか。

根本的には、法律上日本国籍保有者の帰国を拒否することはできないはずなので、検疫所による隔離がせいぜいある程度と思っていました。(実際のところ、オーストラリアなどが入国できる人数を限っていて、なかなか自国民が帰国できないという状況になっていたりしていたのですが)

3/5の発表

ところが、その認識が誤りであると思ったのが3/5の発表でした。改めて、水際対策に係る新たな措置 (9)に添付のPDFを見てみましょう。味わい深いので、最初の項について全文引用します。

1 防疫強化措置の継続・更なる強化

(1)「水際対策強化に係る新たな措置(5)」(令和3年1月8日)において、緊急事態解除宣言が発せられるまで実施することとした、全ての入国者に対して出国前72時間以内の検査証明の提出を求めるとともに入国時の検査を実施する措置は、当分の間、継続するものとする。

今や常識となっている陰性検査証明と入国時検査の全員への強制ですが、この時点においては緊急事態宣言の間の時限的なものだったのですね。

なお、ここで新たに対象となっていたのは、非入国拒否地域からの入国者・帰国者と入国拒否地域から帰国者です。つまりポイントとしては、日本国籍保有者に対しても、どの地域から帰国したとしても全員検査証明を要求する、というのをほぼ恒久化するということです。(どの差分が永続化するのかがわかりづらいのが困りますね・・)

(2)以下の防疫強化措置を、順次実施していく。

最大の問題は、この(2)以下です。まず、これが3月5日に発表されたのですが「順次実施」といういつから適用されるのか曖昧極まりない表現がポイントです。

① 検査証明不所持者については、検疫法に基づき上陸等できないこととし、これにより、不所持者の航空機への搭乗を拒否するよう、航空会社に要請する。

自分の場合は、ここの影響をすごく受ける可能性があるところですね。

これまでの措置((5)による)では「出国前72時間以内の検査証明の提出を求める」が「検査証明を提出できない者に対しては、検疫所長の指定する場所(検疫所が確保する宿泊施設に限る。)での待機を求める」というものでした。ところがこの措置が実施されると、陰性証明がないとそもそも飛行機に乗ることができない、帰国することができないということになってしまいます。

法律上、帰国を拒否することができないので、航空機に乗せないように航空会社に要請する(普通に考えてANAやJALは要請に従うでしょう)という形をとるという手法がここで発表されたのでした。

これは、最近国際線の新規予約停止の要請の場合と同じ議論となるでしょう。帰国する当事者からすれば、「要請」という一見任意に見える方法を使って法律を回避しつつ、帰国する権利を事実上奪うといえるものです。他方見方を変えれば、海外からの変異株含むウイルスの流入を抑えるために、法律の制約がある中で最大限可能なとれる手段を尽くしたともいえるでしょう。

まあ何にせよ、自分の場合は、3月5日に搭乗する予定で、この措置が3月4日深夜(5日早朝)に発表されたということで、これが即時適用であるとその便には乗れないということになってしまいます。さすがに取り急ぎ検査を受けようとしても数時間しかない状況では、(特にPCR検査では)結果が間に合うわけがありません。そこが「順次実施」という曖昧な言い方になっていたところは、明らかな問題だったと思います。(これも、まずは方針を示すことを優先したという見方もできますし、いくらなんでも検査が間に合わないから即時適用ではないだろうとはいえます)

結果論からいえば、この義務化は3月19日に適用されたので、この時点では特に問題ありませんでした。

ただ、真偽は定かではありませんが、空港のカウンター職員によっては陰性証明がないと飛行機に乗せないという取り扱いをする空港もあったようで(アメリカだとありそうなことです)、この措置を誤解したものかそれ以前から何らかの誤解でそうしていたのかわかりませんが、いずれにせよ混乱に寄与した可能性は高そうです。

ちなみに、別の問題となりますが、陰性証明のフォーマットに大して必要以上に拘泥して搭乗拒否になるということもあるようで(これもTwitter等で見かけただけなので真偽は留保しますが)、まあ全般的にこの辺の措置は、上の擬似コードの条件が複雑であるように、実装がぐちゃぐちゃな印象があります。末端の政府職員や航空会社職員、そして当然渡航者に一番そのしわ寄せが行くことになるので、少しずつでも改善していってほしいものです。

あとは入国数を抑えるにしろ、海外での滞在資格を失った邦人など、邦人保護がおろそかにならないようにはしてほしいところです(このあたり例外項目になるせいか、特に言及がないのもよくない気はいたします)。

② 空港の制限エリア内において、ビデオ通話及び位置確認アプリのインストール並びに誓約書に記載された連絡先の真正性の確認を実施する

まあこの辺はしょうがないよねという感じですかね。(インストールはともかく連絡先の真正性の確認ってどうしてるんですかね)

次のエントリで述べますが、インストールしなければいけないアプリも、前述の変異株の流行地域かどうかで変わっていたりして複雑になっていたので、統一化されるってことでしょうか。(なお、2021年12月現在はMySOSというアプリに統一されているようです)

③ ②に際し、スマートフォン不所持者については、スマートフォンを借り受けるよう求める。

これもしょうがないよねという感じです。この世界はGoogleとAppleの支配下にあるのです。

④ 全ての入国者は、検疫等に提出する誓約書において、使用する交通手段(入国者専用車両又は自家用車等)を明記することとする。

なんか急に細かい内容ですね。

⑤ 厚生労働省において全ての入国者を対象とする「入国者健康確認センター」を設置し、当該センターにおいて入国者に対し、入国後14日間の待機期間中、健康フォローアップを実施する。具体的には、位置情報の確認(原則毎日)、ビデオ通話による状況確認(原則毎日)及び3日以上連絡が取れない場合等の見回りを実施する。

こういった準備に時間がかかりそうな措置があるので、すべての措置は即日ではないのはわかるのですけどね・・・。こういう措置と14日間政府指定の宿泊施設に閉じ込めるのと、どっちのほうがコストがかかるのか、そしてそれに見合う実効性(国内での感染を抑えるという本来の目的)が得られるのか、ふと思ったりもします。対照実験ができないこういった領域は難しいですね・・

⑥ 変異株流行国・地域からの入国者については、入国後3日間検疫所長の指定する宿泊施設で待機した後の検査として、現在実施している抗原定量検査に代えて、唾液によるreal-time RT-PCR検査を実施する。

もともと陰性証明書をもち大抵無症状の状態でしょうから、本来は変異株関係なく(むしろ3日間の強制隔離がない変異株流行国・地域以外の場合こそ)空港での検査もPCR検査に戻すべきという気はいたします。とはいえ、実際には検査リソースの問題があるので、そうそう簡単じゃないというのもわかるので、現実的なのはこのあたりなのでしょう。

・・・どうでもいいですが、real-timeとRT-ってかぶってるんじゃないかと思ったんですが、RT-はreverse transcription(逆転写)の略だったんですね。

⑦ 検疫の適切な実施を確保するため、変異株流行国・地域からの航空便を始め、日本に到着する航空機の搭乗者数を抑制し、入国者数を管理する。

もう一つの問題がこちらです。これは、現在も継続していますが、入国者数の制限が明示的にかけられることになります。需要の低下に加えてこういった制限で、飛行機の便数は大して増えていない状況が続いていることになります。

で、今回にも問題になりましたが、これによって飛行機の予約がキャンセルされる、あるいは、そもそも便自体がキャンセルされる可能性というのがわずかながらありました。搭乗拒否の件もそうですが、そもそも便が消滅してしまうと、どうしようもなくなってしまうのですよね・・・

①などが理由で予約を取り直す羽目になった上でこれが適用されると、3月の帰国ラッシュシーズンに便数がさらに少なくなった状況でちゃんと予約を取り直せるのか不安になりますね。まあアメリカ側での居所ほど引き払ってはいたものの、I-94(滞在期限)的には数ヶ月も余裕があったのは幸運でした。

結果的には、これもすぐには何も起こらず、無事に予約はそのまま、飛行機は飛びました。

まとめ

ということで、帰国にあたっての状況をまずは振り返ってみるということで1エントリを使ってみました。

アメリカ側も日本側もそうですけど、各種規制がころころと変わり曖昧だったり急だったりするところがあり、拙速たることは、良くもあり悪くもありという当たり前の感想でした。また、それに巻き込まれる当事者であるかどうかでも、全然印象は異なるなあと思うところであるので、どちらか極端に寄りたくはないですねというところです。

今回は、いつもより真面目な感じになってしまいました(少なくともそのつもり)が、では実際どんな感じであったかを次のエントリで書いていきたいと思います。